【実例①】慢性呼吸不全
人工呼吸器を装着したままの状態で約7年間にもおよび、念願の在宅療養生活を実現。
[基礎データ]病名:肺気腫、慢性呼吸不全 患者:60代 男性 Aさん
事前経過
以前から肺気腫による慢性呼吸不全を抱えていたAさんは、ある日、症状が悪化し、公的病院で胸腔鏡下両側肺容量減少術を受けました。退院後は在宅酸素療法開始となったものの、平穏な在宅療養がしばらく継続されていました。しかし、2年後、インフルエンザにかかったのをきっかけに症状が悪化し、呼吸困難に陥って再度、緊急入院。その際、人工呼吸器管理となりましたが、一応状態が安定したことから、自宅に近い当院へ転院することとなったのです。
当院での治療
入院当時のAさんは意識明瞭で、食事も経口で摂取可能。気管切開しているため、コミュニケーションこそ筆談という状況でしたが、「家に帰りたい」というAさんの意志は強く伝わってきました。
その希望を何とか実現させたいとの思いから、医師、看護師、リハビリスタッフなど多職種協働のもと、検討会議を重ねた結果、在宅療養に向けた治療プログラム実践に取り組むこととなったのです。
呼吸管理を同時に行いながら、まず筋力の衰えた四肢や体幹のリハビリを開始。その後、坐位訓練、立位訓練へと順次進めていきました。一方、ご家族には、人工呼吸器など機器類の扱い方、喀痰(たん)の吸引の仕方などを指導。退院後に関わることになる担当の訪問看護師やケアマネジャーも入院中より入浴やリハビリ訓練の際に参加し、Aさんやご家族との信頼関係を築きあげていきました。
緊急時の対応など種々の不安があったため、シミュレーションを繰り返し行い、ようやく4ヶ月後、訪問看護ステーションで24時間サポート体制を敷き、医師の定期的な訪問診療を行うという万全の体制を敷き、本人、ご家族とも安心して退院の日を迎えることになったのです。
在宅療養の経過
退院後は精神的な苛立ちもなくなり、予想以上に安定した状態が継続。自宅での入浴については工夫を重ね、人工鼻を使用したことで、ゆっくりと浴槽にも浸かれるようになりました。また、携帯酸素を準備したことで近くの公園までドライブできる楽しみもプラス。その後、娘の結婚、孫の誕生と続いたことで、前向きな気持ちがさらに加わり、生活にハリも出てきて、在宅療養を満喫されていました。
しかし、在宅生活6年目に入った頃、感染症が引き金となり、呼吸機能が低下。酸素流量の増量が必要となり、訪問診療での投薬でしばらく小康状態を保っていましたが、血液中炭酸ガスの貯留がしだいに増加したことで、在宅での呼吸管理が限界となり、やむなく再入院。入院後は呼吸機器を変更し、一時は呼吸状態も安定した小康状態が続き、好物のにぎり寿司を食べる元気もみられましたが、肺機能がさらに悪化し、永眠されました。