【実例⑨】肺がん(末期)

肺がん末期に経口摂食やリハビリを。
短期間ながら、本人も妻も強く切望した〝最期はわが家で〟の思いを叶える。

[基礎データ]病名:肺がん末期、転移性脳腫瘍、転移性脊髄腫瘍 患者:50代 男性 I さん

事前経過

 全く病気知らずで過ごされてきた I さんが、いきなり下肢のしびれ、腰痛の症状が出現し始めたのは、まさに還暦目前の59歳の時でした。続いて、尿閉や両下肢が麻痺して動かなくなるなど症状が出始めたため、取り急ぎ、地域の基幹病院で精密検査を受診。その結果、肺がん、転移性脳腫瘍、転移性脊髄腫瘍の診断となりました。
  放射線照射の治療を受け、少し下肢が動くようにはなりましたが、それ以上の効果は期待できない状態でした。それでも、本人、家人(妻)とも在宅療養を希望されていたことから、当院へ転院されてきました。

当院での治療

 入院時の検査では、肺がんが胸壁へ浸潤しており、疼痛緩和のため、麻薬の使用を必要とする状態でした。脳内転移も認められ、時々意識状態が悪化することもありました。それでも経口で食べることを望まれた真意を受け止め、基本となる栄養摂取は希望食で対応。足りない部分は状態を見ながら、輸液(中心静脈栄養)で補うこととしました。

  末期がんでは稀なことですが、妻の希望でリハビリも開始。栄養状態の改善により、いくらか元気になったところで、全スタッフ参加のリハビリテーション・カンファレンス(検討会)を実施しました。そこで、ケアマネジャー主導で立てた、訪問診療週2回、訪問看護週5回、訪問リハビリ週2回というプランのもと、本人も妻も切望していた自宅退院が現実のものとなったのです。

在宅療養実現へ

 残された時間は限られていました。自宅に帰られて1週間後、高熱と呼吸困難をきたし意識状態も薄れて再入院。意識状態はさらに悪化し、I さんは静かに永眠されました。
  約1週間という、ごくわずかな時間でしたが、妻の看護のもと何とか念願の在宅療養という過程を経て旅立たれたことは、I さんと妻が選んだ最期の幸せのカタチだったのではないでしょうか。

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