【実例⑩】卵巣がん

高血圧で通院中に進行した卵巣がんを発見。
本人の希望を全面的に受け入れ、住み慣れた自宅でのターミナル・ケアへ。

[基礎データ]病名:卵巣がん 患者:80代 女性 Jさん

事前経過

 ターミナル終末期を自宅で過ごしたいと望んだのは、彼女が68歳の時、自宅で夫を約1年2ヶ月にわたり看病をされたことに始まります。
 夫は口腔底がんで骨に転移があり、気管切開で会話ができず精神的に落ち込み、食事も摂れていませんでしたが、本人、妻であるJさんとも自宅療養を望まれ、大学病院より当院へ紹介されました。訪問診療、訪問看護では、何とか筆談でコミュニケーションをとりながら、輸液や栄養補助食品で栄養状態の改善を図り、口の中や全身を清潔に保つようにし、少しでも自宅の中を歩けるようにとリハビリも進めました。その結果、一時は小康状態となり、息子や孫が時々来てくれるのを楽しみにされるようになり、ベッドから立ち上がり、家の中を妻に付き添われて歩くことも出来るようになりました。
 しかし、がんは次第に進行し、麻薬投与が必要となる中、妻は「とにかく楽なように・・・」とのみ願っておられました。最後の2ヶ月間は呼びかけにうなずく程度の状態でしたが、家人に見守られながら息を引きとられました。

当院での治療

 その後、Jさんは独り暮らしをされながら、高血圧で外来通院をしていました。そんなある日、腹満を訴え、検査をした結果、進行した卵巣がんが見つかりました。
  地域のがん拠点病院で化学療法を受け、ある程度、治療効果はみられたものの、全身状態は良い状態にはなりませんでした。しかし、本人は、夫を在宅療養で看取った経験からか、在宅療養を強く希望されていました。そして、息子、娘が交替で母親の看病に帰ってくることになり、在宅医療へと移行することになりました。食欲が殆どなく、中心静脈栄養管理を行いつつの退院で、すでに全身状態はターミナルに近く、疼痛緩和のため麻薬使用も開始されていました。

在宅療養

 自宅療養は、訪問診療週2回、訪問看護週5回という計画で開始し、万一を考えての在宅酸素も準備しました。
  ターミナルの状態ではありましたが、住み慣れた自宅での療養はどこかほっとするようでした。娘の作った料理に「おいしい、おいしい」と食欲が出たり、孫の顔を見る楽しみが増えたりと、入院中より元気になり、訪問した看護師に「やっぱり家がえーわ」と言って、とても喜んでいました。
  麻薬を徐々に増量して何とか疼痛を抑えながら、心穏やかな在宅療養を約1ヶ月半ほど送ることができましたが、次第に状態は悪化。家族の見守る中、静かに永眠されました。

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