【実例⑮】糖尿病腎症、多発肋骨骨折、肺挫傷

寝たきり状態を多職種で支え、
リハビリを重ねて実現に導いた、
母親悲願の自宅での還暦祝い。

[基礎データ]病名:糖尿病腎症(慢性腎不全にて血液透析)、多発肋骨骨折、肺挫傷 患者:50代 男性 Oさん

事前経過

40代で糖尿病腎症にて慢性腎不全となり、血液透析開始。54歳で交通事故に遭い、多発性肋骨骨折・肺挫傷を受傷。その後、脳梗塞になった上に、細菌の感染が原因の膝・股関節の化膿性関節炎、腰椎化膿性脊椎炎を発症。急性期病院で治療を継続していましたが、在宅復帰困難にて、長期療養が可能な当院へ転院となりました。

当院での治療

 転院当初のOさんは、ベッド上で体の向きも変えることができない寝たきり状態で、日常生活動作のほとんどが全介助でした。幸いなことに意識障害はなく、意思疎通が可能であったのですが、リハビリや食事も拒否しがちでした。スタッフとしても対応が困難な一面もあったのが正直なところですが、なんとかせねばとの思いを強くした背景にあったのは、「自分が元気なうちに自宅へ一度帰してやりたい」というOさんの母親の強い希望でした。
 退院は無理でも自宅への外出ができないかとリハビリスタッフ、病棟スタッフなど多職種で各方面から検討を行うこととしました。そして、帰宅することを目標として、どんな動作が必要なのかを把握するため、スタッフのみでの自宅訪問を実施。自宅内での移動経路の確認や外出するまでの課題について考え、目標達成日を本人60歳の誕生日とし、自宅で還暦祝いが行えるよう計画を進めることとなったのです。
 リハビリ訓練でまず取り組んだのは、食事摂取や髭剃りなどの生活基本動作が自力でできるようにと、右上肢のリハビリ。帰宅実現を考えて重視したのは、坐位時間の延長をはかり、移乗動作が安全に行えるよう訓練。これを重ねていくと同時に、自宅内での車いす移動ができるよう段差解消も依頼しました。
 そこから誕生日を目標に、Oさんもスタッフと一緒に日々練習を繰り返し、自宅での還暦祝いを実現することができたのです。交通事故から、5年ぶりの帰宅であり、家族、親戚はじめ友人などたくさんの笑顔が集まり、盛大に盛り上がりました。さらに翌年には、馴染みのゴルフ場への外出もでき、リクライニング車いすに乗ったまま、コースへでるところまで行き、緑いっぱいの芝生のゴルフコースを見て、昔を懐かしむことができました。

 その後毎年誕生日に自宅へ外出するのを楽しみとして、療養生活を送られていましたが、感染症を繰り替えされ、次第に体力が低下し、66歳で永眠されました。

考察

 お母様の希望も叶えられるよう、本人の生活歴を考え、スタッフ全員で目標に向けて、安全性やリハビリ方針を検討し、繰り返し訓練した結果、思いが達成できました。リハビリを実施する目標設定の明確さが大切であることを改めて思い知らされました。

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