【実例⑯】くも膜下出血

千里の道も一歩から。
2年のリハビリを通して掴んだ念願の在宅療養生活。

[基礎データ]病名:くも膜下出血、気管切開状態、胃ろう造設状態 患者:50代 男性 Pさん

事前経過

 50歳でくも膜下出血を発症し、急性期病院へ搬送されたPさん。同日、出血を止める開頭クリッピング術を施行され、命をとりとめたものの、気管切開状態となりました。さらに、脳脊髄液の吸収がうまく行われなくなることで引き起こされる正常圧水頭症も発症。過剰な髄液を腹腔内に排出させるVPシャントも施行されました。急性期治療後に一旦、リハビリ目的で当院へ転院されましたが、再度正常圧水頭症を発症したため、急性期病院でVPシャント入れ替え術、胃ろう造設を行った上で当院に再入院となりました。

当院での治療

 当院入院時には,意識は覚醒良好であったものの、右片麻痺でベッド上に寝たきり状態。日常生活動作はすべて介助を必要とし、唾液誤嚥のリスクもありました。
 リハビリを進めるにあたって大切なことは、まず目標を決めること。そうすることで継続するためのモチベーションが上がり、どの身体機能を向上させていくのかの優先順位も明確になります。Pさん本人の希望は「できることは自分でしたい」「家に帰りたい」であり、奥さまの希望は「喀痰の吸引と胃瘻の注入ができたら、家へ帰って欲しい」でした。
 千里の道も一歩から。その目標に向かってさっそく、PT(理学療法)による筋力訓練、立位バランス訓練、歩行訓練、OT(作業療法)による基本動作訓練、ADL訓練、ST(言語聴覚療法)による間接嚥下訓練、発声発語訓練、認知機能訓練から開始していきました。続けていくうちに徐々に成果があらわれ、本人の意欲も見られるようになりました。そしてU字型歩行器での歩行が可能となり、さらにT字杖歩行訓練へとステップアップしていきました。
 続いて取り組んだのは、自分で胃ろう注入の動作獲得。その目標に向け、グリップやボール握りを繰り返し行い、握力向上を目指しました。ST訓練では湿性咳嗽が多く見られ心配されましたが、徐々に減少。呼気量の増加とともに、声量の向上や最長発声持続時間の延長が見られるようになりました。そして、入院後6ヶ月を経過した頃には、看護師見守り下ではありますが、胃ろうからの自己注入までできるようになり、さらにトイレ動作、更衣動作、起居動作の介助量は少しずつ軽減し、やがて車いすも自走できるようになりました。
 そんな中、最後まで尾を引いたのは、気管切開閉鎖に向かうための喀痰の減少でした。それでも根気強くST訓練を継続し、2年が経過した頃にようやく気切孔閉鎖が可能となりました。それに伴い経口摂取が進み、3食とも経口摂取可能となり、胃ろうからの注入も中止できることになったのです。長い時間を要しましたが、目標を達成したその後、T字杖歩行で自宅退院でき、現在は通所介護を利用しながら、在宅生活を送られています。

考察

 目標を決めて持てる身体機能を向上していく場合、脳血管疾患の重症度により時間がかかり、予想通りに訓練がすすまない場合もありますが、この症例のように、あきらめず訓練を継続していくことの大切さを体験しました。

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