【実例⑫】頚髄損傷、後縦靭帯骨化症

「スマホで家族と会話したい」──
本人の希望を叶えた、残存機能に焦点をあてた工夫。

[基礎データ]病名:頚髄損傷、後縦靭帯骨化症 患者:60代 男性 Lさん

事前経過

 ノルディックウォーキング中に転倒して、頚髄を損傷し、四肢不全麻痺の状態となりました。急性期病院で精査の結果、後縦靭帯骨化症による脊柱管の高度狭窄もあり、脊髄の圧迫を取り除く手術を施行。長期治療が予測されるリハビリを当院で開始することになりました。

当院での治療

 当院入院時は、四肢の不全麻痺、四肢の筋力低下と、両肩関節、両手指の著しい拘縮が認められ、まさに自分の意志で動けない状態。日常生活動作は全て介助を必要とし、自律神経障害や座位耐久性の低下があり、ほとんどベッド上での生活でした。そんな中で目指したのは、本人の「スマホを使って家人と会話がしたい」という希望を受け入れるための治療方針でした。そこで残存機能を検討した上で、長時間座っていられるように座位耐久性の向上と、スマホを使いこなすための上肢・手指機能のリハビリを進めつつ、代償機器の検討を行うことにしました。

 まず注目されたのは、“左手指は横つまみができる”という残存機能。そこに焦点をあて、プレゼンテーションなどで使用される「リングマウス」という機器を使用して環境を整えていく方法を採用しました。リングマウスを把持し続けるには筋力が乏しいことから、リングマウスの柄をプラスチック粘土で延長し、手掌内からの脱落防止を図れるよう形状変更。また、スマホ画面が小さくカーソル操作でのミスが多発するため、タブレット操作に変更して訓練を進めていきました。一方、座位耐久性の向上を目指すための方策としては、背板や枕で頚部の疲労感の軽減を図るとともに、臀部の疼痛緩和のためクッションを工夫。さらに、足底の接地面の拡大につなげる工夫など、多面的に取り組みました。
 そうして取り組んでいくうち、座位耐久性も約2時間車いすに座っていられるまでに向上。セッティングされた機器があれば、タブレット操作ができるようになるまでにかかった月日は約1年。それでも当初の希望通り、家族とのスマホでの会話が可能となり、Lさんも奥様も大変喜ばれています。最近ではスタッフ同行で病院近くの公園にもご家族と出かける計画を立て、それも実現できるなど、出来ることが少しずつ増えていっています。

考察

残存機能に焦点をあて、様々に工夫を重ねながら目標に向かって長期間のリハビリを続けた結果、本人の希望が叶えられたことより、決して短期間のかかわりであきらめてはいけないことを学びました。

目次